利害関係を超えた「仲間」が、創業チームになる

利害関係を超えた「仲間」が、創業チームになる

 京都ディープテック事業化支援プロジェクトでは、大学研究者と起業家候補が出会い、講義や対話、実践を通じて事業化に挑む。昨年度参加した深抦友裕さんが得た最大の成果は、事業アイデアだけではなかった。会社でも、友人でも、取引先でもない。それでも「社会課題を解決したい」という思いで自然と集まり、一つの目標へ向かって進む仲間との出会いだった。プロジェクトが始まる前、彼らは全員が初対面だった。それでも数か月後には、会社でも友人でもない、新しい「仲間」として一つの事業に挑んでいる。その創業チームは、どのように生まれたのだろうか。

自分の課題意識を、事業の入口にする

 本プロジェクトでは、はじめから完成した事業アイデアを持っている必要はない。求められるのは、「自分はどんな社会課題を解決したいのか」という問いである。深抦さんは、京都で鳥居製造に関わる家業との接点を持つ中で、製造時に発生する杉や檜のおが屑を、もっと価値ある形で活用できないかという思いを抱いていた。大量に発生する一方で、処理にはコストがかかる。燃料やペット用品など様々な用途を調べたが、「これだ」と思える答えにはたどり着かなかった。

 プログラムでは、まずリバネスのコミュニケーターとの対話から始まる。「どんな社会課題を解決したいのか」「どんな未来を実現したいのか」。参加者自身の思いや経験を丁寧に引き出し、それに共鳴する研究者との接点を探していく。深抦さんも「木材を何とかしたい」という思いを語る中で、「その課題なら、この研究者が合うかもしれない」と松浦先生を紹介された。研究シーズから探すのではなく、人の思いから研究者をつなぐことが、本プロジェクトの特徴だ。

研究との出会いが、地域資源の価値を変えた

 松浦先生は、長年の昆虫研究の知見を生かし、未利用木材をシロアリによって分解し、飼料や食料へ転換する研究を進めている。「鳥居製造で生まれるおが屑をシロアリが食べ、そのシロアリを鶏が食べる」。そんな光景が頭に浮かんだ瞬間、深抦さんの中で長年抱えていた地域資源の課題と、大学の研究技術が一本の線でつながった。そして生まれたのが、おが屑を活用して育てたシロアリを飼料とし、そのシロアリを食べた鶏を京都ブランドとして届ける「京鶏居」という事業構想だった。

 本プロジェクトでは、研究者の技術紹介を聞いて終わるのではない。参加者が持つ課題意識と研究シーズを重ね合わせ、「この技術なら、自分が解決したい課題を前に進められるかもしれない」という接点を一緒に探していく。その対話から、事業の種が生まれていく。

講義を通じて、「創業チーム」が生まれていく

 その後の約半年間、参加者は社会課題の捉え方や事業仮説の考え方、技術の価値の見つけ方を学びながら、自らの構想を何度も発表し、参加者同士で議論を重ねていく。「誰のどんな課題を解決するのか」「何を検証すべきか」。研究者と起業家候補、コミュニケーターが何度も壁打ちを行い、仮説を磨き続ける。その時間の中で、少しずつ「誰となら一緒に挑戦したいか」が見えてくる。

 深抦さんの周りにも、研究を担う松浦先生に加え、同じく起業家候補として参加した松山さんと藤原さん、そして京都市職員の石嶋さん、神戸大学の学生の髙橋さんが自然と集まってきた。民間、行政、大学、学生と、立場も専門性も異なるメンバーである。しかも、京都ディープテック事業化支援プロジェクトが始まる前は、全員がお互いを全く知らなかった。それでも、講義のたびに議論し、アイデアを磨き、研究者を訪ね、市場について語り合う中で、それぞれの役割が少しずつ生まれていった。

 松浦先生は研究開発を担い、深抦さんは事業全体を描く。石嶋さんは行政との接点をつくり、松山さんや藤原さんは事業づくりを支え、髙橋さんは研究現場の視点からチームに加わった。野球チームや仕事仲間とは違う、社会課題を本気で解決したいという思いだけで集まったチームは、深抦さんにとって初めての存在だった。プログラム終了後も、このメンバーは自然と連絡を取り合い、会社設立や研究費申請、実証実験に向けた議論を続けている。プロジェクト期間だけの関係ではなく、一つの未来を目指す創業チームへと変わっていった。

京都ディープテック事業化支援プロジェクトを通じて生まれた創業チーム

研究者だけでも、起業家だけでもない

 研究成果を社会へ届けるには、研究者だけでも、起業家だけでも足りない。技術を理解する人、社会課題を見つける人、地域との接点を持つ人、事業として成立させる人。それぞれが役割を持ち寄ることで、初めて社会実装は動き始める。深抦さん自身も、シロアリの専門家ではなかった。木材を何とかしたいという思いを持って参加し、講義や研究者との対話、市場の調査を重ねながら事業構想を形にしていった。その過程で得た最大の財産は、技術でも事業計画でもない。「産官学民が一緒になって、本気で社会課題を解決しようとするチームができたことです。こういうコミュニティは今までありませんでした」。その言葉のとおり、京都ディープテック事業化支援プロジェクトは、研究者と起業家候補を引き合わせるマッチングの場ではない。社会課題を本気で解決したい人たちが出会い、利害関係を超えた創業チームを生み出す場なのである。「起業したいだけなら、ラーメン屋を始めてもいい。でも、研究を社会実装する起業家はまだまだ少ない」と深抦さんは言う。大学発技術と社会課題をつなぎ、新しい価値を生み出す仲間と出会う。その挑戦を始める場所として、京都ディープテック事業化支援プロジェクトは、新たな一歩を踏み出す人を待っている。

<プロフィール> 

深抦 友裕 氏
 1986年1月、京都府京都市生まれ。甲南大学を卒業後、大手損保会社にて地方3年・大都市7年、リテール営業に従事。2017年度には、マネジメント力と営業力が評価されMVP賞を獲得。退職後は、飲食・経営コンサルティング事業等に従事する中で、知識不足を痛感して経営大学院へ入学。2022年に、兵庫県立大学大学院で経営管理修士(MBA)を取得、現在はBPO・業務コンサルティング会社に正社員在籍し、チーム運営・メンバーマネジメント業務をメインに従事。土日や平日夜間等を活用して、京都大学発ディープテックベンチャー事業立上げ準備中。

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