- Germination Reactor
<私がベンチャーをつくった理由>「自由にやる研究」を仕事にする(株式会社インセプタム・返町 洋祐さん)

ゼロから実験装置をつくってみるのが好きなんですよ。私は、微生物燃料電池の研究をしていて、この装置を学部生の頃から組み立てていました。自分の装置に着目してくれた企業もあって嬉しかったですね。ただ、当時は研究に責任が持てる立場でなかったために共同研究に繋がらなかったことが心残りでした。いろんな人と研究できる研究者でありたい、自由度の高いテーマに挑戦し続けたいという想いを強めて、起業を決めました。「インセプタム」はラテン語で「試み」の意味です。誰もが創造性を発揮できる社会を実現したいのでこれを社名にしました。立ち上げを後押ししたのが、茨城テックプランターでのファイナリスト選出でした。行動してみるものですね。この研究成果の社会実装を目指すプログラムへの参画を機に、微生物燃料電池を活用して未利用バイオマスから発電する世界観を発信していたところ、おもしろい案件が入ってきたんです。動物の糞を有効活用するために、ある素材が糞中の微生物を活性化しているエビデンスを取るものでした。先方の研究者は微生物が専門ではないためにデータを取れず、実証研究に進めませんでした。そこで、インセプタムが微生物に関する実験データを取得し、異分野間の橋渡しをしたわけです。自在にフィットする立場をとりながらリスキーな研究テーマを扱えるのが楽しいと気づきました。微生物燃料電池を普及させるには、まだまだ長い研究の道のりが必要です。電極表面の修飾を改良することや、発電効率を上げる微生物の代謝検討など、多くの開発要素があります。インセプタムでは、微生物燃料電池の知見を軸にできるのを強みに、それらに関わる面白いテーマの発掘にも取り組んでいきます。多様な分野の人とチャレンジングなテーマを手がけて「研究者として生きたい」と思っています。(文・井上 麻衣)(incu・be 61号より転載)
<プロフィール>
返町 洋祐(そりまち・ようすけ)
筑波大学大学院博士後期課程単位取得退学。修士(農学)。国立研究 開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)研究業務員として従事してい た2019年、筑波大学発ベンチャー株式会社インセプタムを設立。 微生物学や電気化学の知識や経験を活かして、企業や大学の研究開 発支援のほか、高校での探究活動サポートやアントレプレナーシップ育成活動にも携わる。