- ニュース
- 京都ディープテック
大学発技術と出会い、自分の可能性を広げる

「大学の研究技術を、もっと社会の役に立てたい。」そんな思いから京都ディープテック事業化支援プロジェクトに参加した加藤淳一さん。ソフトウェア事業の経験を持つ一方、専門外だった材料研究の世界へ飛び込み、研究者とチームを組んで事業化に挑戦した。講義や市場調査、研究者との対話を重ねる中で見えてきたのは、新しい事業だけでなく、自分自身が起業家として、社会で果たすべき役割だった。
「ディープテックベンチャーの創業」に感じた可能性
加藤さんが本プロジェクトに参加したのは、以前からディープテックベンチャーに関心を抱いていたからだ。ソフトウェア領域で複数の事業創出に携わってきた加藤さんだが、「これは自分でなくてもできる仕事ではないか」と感じるようになったという。一方、日本が世界と戦う上で本当に強みとなるものは何かを考えた時、その答えは大学に蓄積された研究技術にあるのではないかと思うようになった。その後、ディープテック領域の事業化支援を学ぶプログラムに参加し、研究者への伴走や事業化について学んだ。しかし実際に大学発技術に触れ、研究者とチームを組んで事業を考える機会はほとんどなかった。
京都ディープテック事業化支援プロジェクトでは、単に研究紹介を聞くだけではない。複数の研究者と直接対話を重ねながら、自分の経験や問題意識と重なる研究者を見つけ、チームを組んで事業化を進めていく。加藤さんにとって、それは未知の研究領域に飛び込み、自分の可能性を広げる絶好の機会だった。
技術だけではなく、「この人と挑戦したい」で研究者を選ぶ
プロジェクトでは、起業家候補が研究テーマだけを見て研究者を選ぶわけではない。初回から複数の研究者と直接対話を重ね、それぞれの研究内容や人柄、社会実装への考え方を知りながら、「誰と一緒に事業をつくりたいか」を考えていく。
加藤さんが連携を決めたのは、同志社大学の西村慎之介先生だった。西村先生の研究は、バイオマス由来の新素材を活用し、多様な用途展開を目指す高分子材料の研究である。素材研究は加藤さんにとって未知の領域だった。それでも初めて話した時から、「この先生となら一緒にやっていけそうだ」という感覚があったという。研究内容だけでなく、事業化への意欲や対話のしやすさ、お互いの考え方の相性も重要な判断材料となった。研究者と起業家候補がお互いを選び合い、チームをつくっていくことが、このプログラムの特徴である。
連携する研究者を決めた後、約半年間にわたって事業化に向けた講義と実践が始まった。講義はHow toやスキルアップを目的としたものではなく、長らく開発が必要となるディープテック領域での事業化に必要なマインドや姿勢といった前提を揃えるものだった。まずは自分の情熱を言語化するところから始まり、社会課題の捉え方、技術の用途探索、事業「仮説」を考えて試行錯誤する視点などを学びながら、自分が解決したい「課題」と実現したい世界を描いていった。その上で、先生の知識や技術と組み合わせた「課題の解決策」を構想していくのだ。
仮説検証を繰り返しながら、事業アイデアを磨く
加藤さんが最も印象に残っているのは、「武器は拾いながら集めろ」という言葉だった。十分に準備を整えてから挑戦するのではなく、動きながら知識を集め、人と出会い、仮説を更新していく。その姿勢こそが、ディープテック事業化では重要だという考え方である。加藤さんは専門外だった高分子材料の研究を理解するため、研究資料を読み込み、AIも活用しながら内容を整理し、先生やメンターとの壁打ちを何度も繰り返した。
さらに、プログラムの中では、技術を理解するだけではなく、実際の市場や産業の課題を調べ、技術と社会課題を結び付けた上で事業仮説を立てることが求められた。加藤さんは自治体での活動経験をもとに地域課題を整理するとともに、行政担当者、学会、大手企業などへ自ら足を運び、現場の声を集めていった。当初考えていた用途だけではなく、ペロブスカイト太陽電池の普及に伴う資源循環という新たな課題も見えてきた。研究室の技術だけでも、市場の課題だけでも事業にはならない。その両者をつなぐ役割こそ、起業家候補に求められていることだと、加藤さんは実感した。加藤さんは最後まで二つの事業案で悩み抜き、最終的に希少資源の回収・循環のテーマの実現を目指すと決めた。

令和7年度京都ディープテック事業化支援プロジェクトの事業プレゼン会の集合写真
参加してよかった。挑戦して失うものはない
プロジェクトは、事業プランを発表して終わりではない。加藤さんと西村先生は現在も共同で研究費申請を進めるほか、会社設立の時期や役割分担、研究室メンバーの参画などについて議論を重ねている。研究者は教育・研究を本業とする立場であり、限られた時間の中で事業化に取り組む。そのことへのリスペクトを持ちながら、お互いの強みを活かすチームを築いていくことが、社会実装への第一歩だと加藤さんは語る。
こうした共創は、外部アクセラレーションプログラムへの応募やVCとの対話など、新たな挑戦にもつながっている。「参加前の自分に声を掛けるなら、『参加してよかった』と言います」と加藤さんは振り返る。ディープテックで起業するかどうかに関わらず、このプログラムでは研究者と出会い、自分の経験や強みが社会課題の解決にどう生かせるのかを考えることができる。研究者とチームを組み、講義で学び、市場へ足を運び、仮説を何度も更新する。その積み重ねを通して、自分自身の可能性や社会で果たしたい役割が少しずつ見えてくる。京都ディープテック事業化支援プロジェクトは、新しい領域へ挑戦したい人にとって、その一歩を踏み出す実践の場なのである。
<プロフィール>
加藤 淳一 氏
連続起業家として国内外で5社の創業に携わり、累計4.5億円の資金調達を実施。東南アジアで創業したWeb3企業では約100名の多国籍チームを率いた。千葉県白子町の地域活性化起業人として地域課題に取り組む傍ら、本プロジェクトを通じて同志社大学発の技術シーズの事業化に挑戦。NEDO NEP、中小機構FASTAR第14期に採択。「地域資源×ディープテック」による循環型社会の実現を目指す。
