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多様な価値観の中で、新たな価値を表現し仲間を集める

本記事は、2024年09月発行の人材応援冊子 Vol.25「2025年の分岐点」に掲載されたインタビュー記事をもとに、ウェブ掲載用として再編集したものです。
話し手
前川 瑠里 氏
東京大学大学院 総合文化研究科 修士2年
1999年生まれ、京都府出身。大阪府立大学工学部に所属中の2022年にMAKERS UNIVERSITY 第6期生として活動を開始し、研究コミュニティ ミツバチを設立。その運営を担う株式会社 QueeenB を立ち上げ、若手研究者の研究資金獲得イベントなどを多数実施。2023年リバネス奨学金第一期生に採択され、2023年10月に初の海外イベント Asia Science Hive をマレーシアで開催。現在は活動を継続しながら大学院では人工臓器オルガノイドの研究に、会社ではアントレプレナーシップを持った博士コミュニティの創出と研究を自動化するロボット開発に東北大学と提携して取り組んでいる。
聞き手
上野 裕子
株式会社リバネス グループ開発事業本部部長 人材開発事業部
Leave a Nest Malaysia Sdn. Bhd.取締役
博士(理学)。在学中は米国留学経験を通じて、極限環境生物学にて生命の起源の探求を行う。2013年株式会社リバネス入社。人材開発事業部部長などを経て2021年10月より、グループ開発事業本部 部長、同年11月より Leave a Nest Malaysia Sdn. Bhd. 取締役を務める。リバネスグループが拠点を持つアメリカ、イギリス、シンガポール、マレーシア、フィリピンのディープテックスタートアップの発掘育成を行うと同時に、スタートアップと協業した日本企業の新規事業のデザインを行う。

現在東京大学大学院で学びながら、株式会社 QueeenB の立ち上げメンバーとして研究コミュニティミツバチの運営などを通して、研究をやりたい誰もが研究できる社会を目指している前川瑠里さん。リバネス奨学金で第一期生として採択され、採択者の活動を支援するゼミ活動をきっかけに、若手研究者のための研究資金獲得イベント「Asia Science Hive」をマレーシアで実施、成功させた。今まさに成長途上の若手研究者でもある彼女をこのような活動に駆り立てるのはいったいどのような価値観なのだろうか。リバネスマレーシアの取締役でもあり、ゼミ活動の中で彼女の取り組みを支援した株式会社リバネス上野裕子と語る。
情報だけでなく
自分の目で確かめる
上野:高校1年生のときから研究が好きだったと聞いたのですが、「研究」がしたいと思えたのはなぜなのでしょうか。中学高校で理科の授業はありますが、そこでやるのは「実験」ですよね。実験は、教科書で習う内容を実体験する、いわばおいしい料理を作るための答えが書いてあるレシピ本のようなもの。でも、答えのない問題に取り組む研究は違います。どこで研究の楽しさを知ったんですか?
前川:高校生の頃はとにかく化学オタクで研究のことしか考えてなかったですね。研究を知ったきっかけは、グローバルサイエンスキャンパスという取り組みに参加したことでした。高校生が大学で研究ができるプログラムで、大阪大学、京都大学などに通い、新規の蛍光分子を合成して、構造による蛍光輝度の違いを調査していました。先生も結果が分からない。教科書にも載っていない未知のものを解き明かしていくことが、楽しかったですね。
上野:なるほど。でも、そもそもそういう取り組みに参加しようと思ったのはなぜなのでしょう?
前川:実は最初は進路選択のためでした。高校までは科学の教科って、「数学」や「物理」という分類でした。でも大学受験の志望調査で急に「理学」とか「工学」が出てきて、ぜんぜん違う枠組みで捉えられてると思いました。それぞれがどのように違うのか分からなかったんです。その頃友達に「一緒に工学と理学の違いを確かめに行こう」と言われて、それは意思決定に関わる良い経験ができそうと思い、プログラムに参加しました。
上野:自分が高校生の頃のことを考えると、例えば大学案内に書いてあることを確かめに行こうという発想はなくて、書かれている情報から判断していたように思います。今は当時よりももっと簡単にたくさんの情報が手に入ると思いますが、それでもやっぱり「自分の目で見たい」と思うものですか?
前川:そうですね。百聞は一見にしかずといいますが、自分の体験を一番信じているのかもしれません。自分が面白いと思えるかや、向き不向きはネットは教えてくれないじゃないですか。もちろん、体験ができる恵まれた環境にいたというのも大きいとは思います。

思い通りにいかない時間が
視野を広げる
前川:その後、研究がしたくて大学に入ったわけですが、どうやら学部1年生では研究はできないらしいということにはじめて気がついたんです。化学の研究がしたかったのですが、「危ないから1年生にはやらせられない」、「ちゃんと授業で学んでからね」と言われて。最初はそんな仕組みは変えられるはずだ、と思って、学部長にまで直談判に行ったんですが答えは同じでした。
そのうち化学もあまり好きではなくなってしまいました。研究で知りたいことを自分で調べていく能動的な学びに対して、授業のような偶発的な学びの両軸がある時間が自分はとても楽しくて。高校生の頃はその2つがリンクしていたんですが、それが片方になってしまったのが、大学1年生の頃でした。実は大学受験で第一志望校に落ちていたこともあり、その頃とても悲しくなっていました。でも、悲しいという感情の理由を考えたときに、高校生の頃から研究しかやってこなかったことで、自分が研究や学問の評価軸でしか自分を測れていないと気づきました。自分はまだしも、これから関わる人、世の中や時代を1つの価値観でしか測れないのは豊かでないと思い、それで、あえて研究以外のことをやってみることにしました。イベントで100人集客してみたり、起業関連の取り組みとか、そういうことに色々参加していました。
上野:なるほど。自分の視野を意図的に広げようとする時期も大切ですよね。
前川:イベント開催を通じて、自分の興味のなかった分野も含めてたくさんの人と話したのですが、結局自分が心惹かれるのは研究でした。これだけいろんなことを知っても、やっぱり研究が好きなら、もう一度この道で挑戦してみようと心が決まりました。そこで、日本では研究できないと見切りをつけ、海外留学プログラムに応募し、ジョージア工科大学への短期留学ができるようになったんです。ところが、ちょうど世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大が始まってしまい、その年の留学は延期になってしまいました。
上野:2021年の冬頃だとちょうど大変な時期ですね。
前川:どうせ何もできないなら、と、大学に入って自分が研究できなかった経験を元に、学部生でも研究できるようにする仕組みを作りを始めました。活動しているうちに、学生の起業を支援する NPO法人 ETIC. が運営する MAKERS UNIVERSITY の存在を知りました。最初は起業経験がないため躊躇していたのですが、受けて失うものを考えた時になかった、むしろ応募の過程で自分のやりたいことを内省できる良い機会だと考え挑戦してみようと参加しました。大学2年生の冬に活動が始まったのですが、ここで、「君たちは今日から起業家だ」といわれ、とにかくヒアリングの重要性や課題の解決を重視する新しい考えを叩き込まれていきました。
上野:ここでの活動が今運営している研究コミュニティミツバチの立ち上げや会社設立につながっていったんですね。
異なる価値観の二者択一から融合へ
前川:一方で、ジョージア工科大学に行く権利はまだ持っていたので3年生の夏に渡米しました。当時は昼間は大学で研究して、帰ってから明け方までオンラインで MAKERS のプログラムを受けていました。
上野:とても大変じゃないですか。なぜそんな生活を続けられたんでしょうか。どちらかを辞めるという選択肢もありましたよね?
前川:自分は起業家なのか研究者なのか、どちらを取るのか見定める期間にしようと思っていたからです。その時はすごく視野の狭い人間で、今の世の中にある生き方を見て、二者択一で自分をどちらかに当てはめようとしてたんだと思います。

上野:その時の起業家の定義は会社を作ることですか?
前川:そうですね、その時の起業家の定義は、どっちかというと、会社を作って、誰もが研究できるシステム自体を作っていく人、自分がプレイヤーというよりも、プレイヤーを支える基盤を作っていく人だと思っていました。
実は渡米直前は、研究をしていない時間が長すぎて、自分が研究が好きなのかわからなくなっていました。でも、現地で聞いたハーバード大学の教授の講演がとても面白くて、感動したんです。結晶学の研究者だったのですが、誰かの役にたっているから、価値があるからではなく、シンプルに研究が好きでやってるんだろうなという印象でした。そのころは、働くというのは、例えば起業して、なにかの課題を解決して、その対価としてお金をもらうものだと考えていたんです。でも、ただ単純に面白い、それを追求するということに、心が動く自分がいるんだということに気づきましたね。そこでもうちょっと研究したいなと思ったのが、大学3年生の夏でした。
上野:私は生命の起源の研究をするために極限環境微生物の研究をしていたのですが、一人の人間が探究心を突き詰めるために、全エネルギーをかけることができる、そういう研究者にとても憧れていました。
前川:そこから私自身にも少し変化があって、それまでは、私自身研究と解決したい世の中の課題が結びついてない人間だったのですが、自分が取り組んでいた研究テーマがどんな課題を解決するのか興味をもち始めました。今は科学的な現象としての面白さもあり、かつ課題を解決し、かつ世の中のためにもなる研究が私にとってのエキサイティングな研究です。
上野:両方同時にやったからこそ、価値観が融合してきたんですね。
新しい価値を表現できる人
上野:リバネス奨学金の活動中に取り組んだ Asia Science Hive では何か良い発見はありましたか?
前川:英語を使いながら、多種多様な背景をもった国籍も違う人たちが集まり、かつみんなが納得できる意見のゴール、収束先を見つけていくという体験ができたのはすごくいい経験だったと思っています。今までは英語でのミーティングでは意見をいう一参加者で、収束先を見つけなければいけない立場にいなかったので新しい体験でした。
上野:私も海外子会社のメンバーとプロジェクトを行っているので、気持ちがよくわかります。より多様になればなるほど、相手の考えをリスペクトしている、というのをこまめに表現しながら議論する必要があると感じています。
前川:より多様性を受け入れようとすればするほど、あなたのその考え方には価値があると思います、それ分かってますよ、と伝えていくコミュニケーションの仕方が必要になりますね。以前何かの本で読んだ話なのですが、人間が進化できた理由は専門性と価値の交換ができたからだ、というのがあるのですが、私も専門性とその価値の交換で大きな革命や進化が生まれるんじゃないかと思っているんです。価値観が同じ人が集まっていれば、議論はもっと早く進められるけれど、多様になればなるほど、意思決定の速度は下がってしまうのかなと思います。どのフェーズではその多様性が重要で、どのフェーズでは少人数の意思決定がいいのかを見極めていきたいですね。
上野:逆に、日本と文化や背景が違う人同士が同じ組織にいる時に、多少けんかをしてもゴールに向かって行こうと思えるのは、今やろうとしてることって価値があるよねっていうベースラインで同意し合えていないとできないですよね。
前川:価値があると両者が認識してないと交換できないですもんね。奨学金のゼミ活動の中でも最も難しかったのは、今はまだ価値がないものに、将来生まれる価値をどう相手に想像させ、かつ投資してもらうかと考えるところでした。
上野:昔は価値のものさしは、お金とか偏差値とかわかりやすかったけれど、今はものさしがたくさん出てきたと思うんですよね。今まだないものに、なぜ価値があるのかと表現する力の方がよっぽど重要な気がします。それこそ不安定で不確実な時代だからこそ、価値の表現力が問われている世代だと思います。
前川:今ないものに、どのような価値があるのかを見せて、しかもそれを発信して仲間を集めていくのが大事ですね。
上野:今後はどのような活動をしていく予定ですか?
前川:大学院生になり、自分に近い博士学生に目が向いてきました。現在は学振(日本学術振興会の特別研究員)の採択者が若手研究者として評価されますが、採択されると制度の問題で起業が難しくなります。実用化に至れば世の中にインパクトを与える研究を行っている、やる気のある若手の研究者が多くいるのにも関わらずです。そんなふうに資格や条件によってやりたいことに挑戦できなくなる状況をなくせるような仕組みを作っていきたいと思っています。
上野:それもまた新しい価値の発信になりそうですね。これからも応援しています!
(構成・重永 美由希)
