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誰もが使えるミミズの『活きた分類学』の実現を目指して

本記事は、2024年06月発行の人材応援冊子 Vol.24「2025年の分岐点」に掲載されたインタビュー記事をもとに、ウェブ掲載用として再編集したものです。
話し手
遠藤 颯 氏
東京都立大学 理学部 3年生
幼少期よりミミズ採取に明け暮れ、高校生時には宇都宮大学 GSC(iP-U)にてミミズ系統分類学を研究する。令和2年度 GSC 全国受講生研究発表会では科学技術振興機構理事長賞を受賞。国内外での幅広い研究活動の他、多くの企業・団体と共に、動物福祉の向上を目指す「MIMIZOO」や次世代の探求力を向上させる「ミミズ研究ワークショップ」等、ミミズを用いた社会実装事業を行う。将来の夢は世界一のミミズ研究者。
聞き手
篠澤 裕介
株式会社リバネス 執行役員
東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学修士)。2008年 PR 会社を経て2009年よりリバネスに入社。同年、大学院生向けシリコンバレー研修を立ち上げる。2013年より、シードアクセラレーション事業「TECH PLANTER」を立ち上げ、日本国内外における大企業とスタートアップの連携構築の仕組みを構築し、新規事業創出や産学連携事業などを行う。2023年にリバネス奨学金を立ち上げ、学生の活動を応援し、アントレプレナーシップを育む取り組みを開始。

「世界を変えたいが、何からやったらいいのかわからない」という悩みや「これがやりたい!」という野望を持った学生に10万円を準備し、3回のゼミで各々の活動を推進するリバネス奨学金。2023年の第一期ではリバネスの東京本社・大阪本社で計37名の学生が採択され、新たな活動をスタートさせた。今の学生はどのようなことを考え、世界を変えるためにどんなチャレンジをしているのか。そして、学生を応援する側がやるべきことや、持つべきマインドセットは何か。第一期の奨学生として活動した東京都立大学の遠藤 颯さんと、リバネス奨学金の仕組みを開発した株式会社リバネスの篠澤 裕介が語る。
基礎研究から
世界を変えるチャレンジ
篠澤:お久しぶりです、去年のゼミ以来ですね。活動は続けていますか?
遠藤:はい、あれから「誰もが使えるミミズの『活きた分類学』の実現」を掲げて、リバネスの超異分野学会などに参加し、新たな活動に広がっています。例えば、動物園にいる飼育動物は餌としてミミズを食べますが、ツリミミズよりフトミミズの方を好んで食べるそうなんです。なのでもしフトミミズの飼育に成功すれば、動物園の餌不足問題のブレイクスルーになるかもしれません。
篠澤:ミミズの新しい可能性が見えましたね。
遠藤:ミミズが飼育できるというだけの事が、課題の解決に繋がるかもしれないというアイデアは、自分にとって発見でした。当然ミミズの飼育自体を成功させる必要はありますが、ミミズ研究が進むことで世の中が変わるということが、具体例を伴ってイメージできたというのは大きいです。
リバネス奨学金のゼミで研究紹介をした時、ゼミ長から「その研究でどうやって世界を変えるの?」と聞かれました。それに対して僕は、「基礎研究は、直接的には世界は変えられないけど、変えられる可能性があるのでやってます」と、テンプレ的な回答をしたんです。そしたらゼミ長から「それでは、ここに来ている意味がないね」と言われて、「確かにな」って思っちゃったんです。そこからはずっと頭を抱えっぱなしで、現状まだはっきりとした答えは見つけられていないのですが、まずはミミズの分類学を誰でも活用できる「活きた分類学」にし、研究の世界を変えようと思っています。世界を変えるとまではまだ言えませんが、ミミズ界隈をまずは変えてみようというのを目標にしてます。
自力で得た10万が、
自信と活動を後押しした
篠澤:渡した活動費は何に使いましたか?
遠藤:ミミズ研究ワークショップの準備や、人に会うための交通費にあてています。先日は、株式会社みみずやという会社の人に会うために、長野県の飯綱町まで行って下見をしてきました。みみずやさんは、みみず事業を中心に町おこしをやっている会社なので、ワークショップで協力できないかと考えているんです。
篠澤:今、学部3年生ですよね?もう大学の枠を超えて、ネットワークを広げているとは素晴らしいです。もっと活動費がほしいとか、要望はありますか?
遠藤:欲を言えばないわけではないですが、自分の活動にお金がつくという経験が初めてだったので、今の僕にとっては十分です。実は、学部生が申請してもらえるお金ってあまりないんですよ。大学院生向けや、それこそ中高生向けの研究助成はそこそこある中で、大学の学部生が抜けてしまっているんです。

篠澤:高校から独自でミミズの研究をしていたんですよね。そのときはどうしていたのですか?
遠藤:高校生の時は宇都宮大学のグローバルサイエンスキャンパスというプロジェクトで、3年間研究をさせてもらってました。その時の研究費は、担当の大学の先生が全部用意してくれたので、僕が自分で直接、研究活動に必要なお金を取りに行くということはしてなかったんです。
篠澤:そうか、だから活動費が自信につながったんですね。
遠藤:そうですね。自信にもなりますし、今までぼやっとしていた「あれやってみたい」というアイデアに活動費がつくことで、「ちゃんとやっていかなきゃ」という意識に変わりました。ある種の焦りというか……良いブースターになった気がしています。
夢をでっかく言ってみよう
篠澤:活動費の10万円や、「どうやって世界を変えるの?」というゼミ長からの問い、そして一緒に活動する仲間が、遠藤さんの将来のビジョンの形成に役立ったのなら、これ以上嬉しいことはないです。日本には、学生が自分の将来のビジョンや夢を語って、それにお金がつくような場があまりないと思っていて。私は2009年頃、それこそ遠藤さんのような学生をシリコンバレーに連れて行く海外研修を実施していたのですが、そこには、やたらと大きなビジョンや夢を語る人と、その夢に何千万もお金をつける人がいたんです。結果としてそこからベンチャーが生まれ、今の巨大企業につながっている。私もリバネスで2014年からベンチャーを応援する活動を始めて、研究者の大きなビジョンや夢に伴走する仕事をしてきました。
そこでずっとこだわってきたのは、とにかく「夢をでっかく言う練習」です。当然最初は上手く話せない。だけどその人の夢を10倍大きく言えるかどうか練習しよう、というような気持ちで関わっていると、「初めて話が合いました」というような研究者がボロボロ出てくるんです。たとえば、培養細胞でお肉を作りたい、そして人類を腹いっぱい食わせたい、そのためにはこんな大きい培養肉工場が火星に建っていないと、みたいなことを研究者が言い出したら、「それ面白いね」と言って思いっ切りその夢に乗っかる。普段からそんな仕事をしているから、遠藤さんのように、大きいことを言うちょっと手前の若い人たちに出会うと、こいつなんて言ったら目つき変わるかなって考えちゃいます。
遠藤:自分は、ミミズへの思いを語るのは得意ですけど、ミミズ以外の思いを語るのが苦手です。あと、他人に頼ることも苦手でした。それこそ今年やる研究ワークショップのみみずやさんには僕から声をかけたんですが、多分リバネスのゼミに来ていなかったらそれもできなかったと思います。フィールドワークも実験も、ソロプレイでどうにかしていました。しかし、世界を変えようとなると、ソロプレイだとどうにもいかなくなって、結局周りを巻き込んでいかなきゃいけない。ある意味仕方なくやっていく中で「拒まれたらちょっと嫌だな」って思ったところが、当たって砕けろの精神で頼ってみた結果、「いいよ」って言ってくれることが多くて、そこの苦手意識が変わったところがありますね。
篠澤:周りからの「お前やってみろよ」とかが後押しになることありますからね。なので私のやるべきことは、後輩たちに発破をかけることかなと思ってます。

出る杭が打たれない
社会をつくりたい
篠澤:ゼミ活動はどうでした?
遠藤:ゼミとゼミの間に1ヶ月間あるんですが、準備がしきれないんです。あの人とも話して、この人とも話して、全部やりたいけど全部中途半端になったらどうしようと。思い返すと大変でしたけど、すごく刺激的でした。
篠澤:同じようにやりたいことがある奨学生が集まったことで、相乗効果がありましたよね。こういう人たちが集まる場は、他にはなかなかないじゃないですか。「世界を変える」なんて、恥ずかしいとか。世の中の大半の人は、新しいことをやるなんて面倒ですからね。
シリコンバレーには、異常にやる気のある人が移民を中心に集まっていて、そこにお金も集まってくる。羨ましいなと思ったので、リバネスでもやる気がある人にはじゃんじゃんお金を配りたいと、2009年当時から思っていたんです。だからこのリバネス奨学金を立ち上げて、できる範囲で配っています。やる気があって徳の高い人であれば、きっと悪いことは起きない、超・性善説で構えていて。基礎研究や技術の開発に没頭してる人が、我欲だけで動くケースは日本においてほぼないと思うんです。だから信じて大丈夫。私はここにどんどん投資したい。このリバネス奨学金の仕組みは、そのうち世の中の常識をガラッと変えます。企業は株主還元もいいけど奨学金を出すべき。そして、社内でもアントレプレナーシップを育んで、それを若い人に還元する仕組みにしたいなと思っています。
遠藤:そういう輪が広がると本当に世界が変わるなって気がしますよね。ミミズの研究の世界が変わって、自分の周りが変わって、そして、自分たちが住んでる社会が変わる。出る杭が打たれるような社会が変わっていって、個性がちゃんとその中で活動して、結果として社会がちゃんと成長して回り出すというか。みんなが自分を主張し始めると回らなくなっちゃう社会が、うまいバランスをとって回り出すんじゃないかなっていう気がしますよね。
篠澤:遠藤さんも出る杭として打たれた経験があるんですか?
遠藤:環境は良かったほうだと思います。小中学生の時は、担任の先生には早く勉強しなさいと言われましたが、自分の両親や校長先生は話をわかってくれて、好きに研究していいよと言ってくれたり。なので、出る杭を完全に打たれたわけではないですが、やはりミミズをやっていると、変わっているねと言われたりしたことはあります。まあ、そういうのはある意味当たり前な社会なのかもしれません。
2022年から高校で新たな学習指導要領が始まって、探究学習をしなさいと書いてあります。要するに、己の本当の興味を伸ばして、学校で研究しなさい、好きなことやりなさいって、学校の先生は言いますよね。でも、今まで出る杭を打ってきたような人がいきなりそんなことを言っても、何も起こらないと僕は思っちゃうんですよ。そこにこそ研究者との架け橋になってくれる存在が絶対に必要で、それは本当に今、喫緊の課題だと思っています。
篠澤:まずは認められて、褒めてもらった経験がないと、始まらないよね。
遠藤:学校の前段階として社会全体がそういう風潮に変わって、出る杭を打たれなかった子が増えてくれば、勝手にその子たちは進んでいくんじゃないかなって。学校だけでなく、社会全体として雰囲気を変えていく必要があると思います。
篠澤:経験した人同士がお互いにインスパイアされるのが一番というのが私の持論なので、出る杭が打たれない社会を実現するには、出る杭を伸ばした人たちが増えていく勢いが大事。中間層の人がなびくようになったら、世の中は完全に変わったといえるんじゃないかな。そこまで行くには、あと10年くらいかかりそうだけど、遠藤くんにはもっともっと投資したいので、我々ももっと大きくなれるよう頑張ります。お互い頑張ろう!
遠藤:引き続きよろしくお願いします!
