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ロボットづくりの好きを極め、人に寄り添うプロダクトを届ける

本記事は、2025年6月発行の人材応援冊子Vol.28「2025年の分岐点」に掲載されたインタビュー記事をもとに、ウェブ掲載用として再編集したものです。
話し手
慶應義塾大学
環境情報学部 環境情報学科 1年
篠部 虹人
「入院患者・患児の寂しさを解消する」ことをミッションに、コミュニケーションロボットの研究開発および医療現場での実証実験に取り組む。代表作に、抱擁型ロボット「Hug Bot(ハグボット)」、ぬくもり伝達ロボット「Breath(ブリース)」などがある。2023年には、「令和5年度かながわ学生 ビジネスアイデアコンテスト」でエッジ賞とユーブローム賞を受賞し、2024年にはSFC-IFCが主催する「障害のみらいを考える文化祭」にも出展。その後リバネス奨学金 太陽誘電ゼミに招待生として参加、2025年3月に行われたサイエンスキャッスルジャパン2025では口頭発表にも選出された。現在は、次世代研究所アドバンスラボの研究員として活動中。
聞き手
Leave a Nest
執行役員CBO 兼 株式会社ADvance Lab代表取締役
松原 尚子
東京農工大学大学院農学府生物生産科学部門修了、修士(農学)。研究開発事業から経営管理、地域開発、教育開発など様々な事業分野を経験し、2012年より執行役員に就任。大手事業会社や地域中核企業の新規事業の立ち上げや戦略的運営を担うと同時に、ベンチャー企業の研究開発・事業開発のサポートなどを行う。また、経営企画室において自社のブランディングや人材育成の企画開発を担い、組織の基盤強化と価値向上にも取り組む。

高校時代に数多くのロボットをつくってきた篠部虹人さん。友人家族が抱える課題をきっかけに、地元の老人ホームや国立成育医療研究センターなど様々な現場の生の声を聞きながら、人に寄り添ったロボットを開発し続けてきたという。ロボット開発を起点に活動の幅を広げてきた篠部さんの軌跡と展望から、これからの世界を覗く。
「寂しさ」をロボットの力でなくしたい
松原:数多くのロボットを持ってきてくれてありがとうございます。高校生の間にこれらをつくってきたと聞きました。ロボット作りにのめり込んだきっかけはどんなことだったのでしょうか。
篠部:ロボットづくりは、中学2年生の自由研究でつくってみたのが最初でした。「つくることが楽しかった」ところから始まったのですが、私はただつくるだけでは続かないタイプ。自分がつくったロボットがどのように人の役に立つんだろうというのが想像できないと熱量を込められなかったのです。のめり込むようになったのは、高校2年生のときにクラスメイトのお母さんの言葉がきっかけです。末期がんで入院されていたのですが、病室からでも授業参観などに参加したい、という母親としての想いを聞いたときに、自分自身のものづくりの力を活かして、彼女の想いを実現できないかという考えに至り、開発したのが「ロボくま」なんです。中にカメラ、マイク、スピーカーとサーボモーターが入ってて、誰かに行きたいところに持っていってもらうことで、病室から遠隔操作してリアルタイムで会話ができる機能を持ったロボットとして、夏休みを使ってつくりました。
松原:友達のお母さんが子どもたちを、また子どもたちがお母さんを身近に感じるロボットということですね。一方で、たとえ友達のお母さんの言葉がきっかけでも、ロボットを開発したいと思うまでに発展する気持ちの変化が篠部さんの中にもあったと思うのですが、振り返ってみていかがですか。
篠部:「寂しさを解消したい」というのが、全てのロボットにあるゴールなんですけど、その観点でいうと、小学校時代、4〜5年間父親と離れて暮らしていたということが原体験としてあるのかもしれません。母親も働いており、一人でいる時間が小学校低学年時代には多かったような記憶です。そのときに覚えた寂しさみたいなもので、友達の家族の話を聞いたときに体が反応してしまったというか、放っておけなくなっていた、というのが今振り返ると思うことです。
松原:自分の原体験が呼び起こされ、ロボット開発に没頭したのですね。やはり、強烈な原体験があるものですね。
誰かの1人のために届けるインターフェース
松原:お話を聞いていると、離れている人や、行きたいところに行けない人など、何かしら不自由のある人たちのコミュニケーションを活性化したいという思いを感じるのですが、その手段としてロボットを選ぶ理由はなんだったのでしょうか。
篠部:そうですね。実はロボットに固執するつもりはありません。でも、今はロボットが離れている人をつなぐ手段としてよいのではないかという仮説のもと、深堀りをしているフェーズと捉えるのが良いかなと思います。
松原:手段には固執しないという考え方は、とても本質的だと感じました。アントレプレナーを支援していると、やりたいことに没頭して活動しているうちに、だんだんとテクノロジーだけに注力してしまう瞬間があります。あくまで手段の一つだと思うので、自身の原点や目的に立ち戻り、見直すことも大事ですね。ちなみに、篠部さんが活動を通じて作ってきたロボットは、それぞれ見た目の特徴が異なりますね。それにはなにか理由があるのでしょうか。
篠部:はい。それぞれ現場の声に応えようとした結果です。例えば、最初は友達の弟がお母さんにハグしたいという希望から、ハグニケーションロボット「HugBot」をつくりました。支えていないと倒れるような重心設計をしており、見た目の形状から思わずハグしたくなるようなロボットにしました。しかし、ハグしている感覚を呼び起こすことができなかったり、生命感を感じることができない、というフィードバックをもらう結果に。そこで、次はぬくもりに着目して、人間らしい呼吸を持つロボット「Breath」を開発しました。最初のころは「HugBot」のように顔があったのですが、小児科の病院関係者から、顔があると、人を連想させ、むしろ子どもたちが寂しい感情を抱いてしまうということから、今は人っぽいけど人じゃないロボットとしています。結果として、普段声を荒げるような子どもも、Breathを抱いていると落ち着く事例もでてきて、一定の効果が見られました。まだ完成形ではないですが、方向性としては合ってきているなという実感があります。
松原:まさに現場の声に寄り添ったプロダクト開発ですね。私もBreathを抱いていると安心します(笑)。篠部さんにとって、ロボット製作にかける信念はどのようなものでしょうか。
篠部:どんなプロダクトをつくるときも、最初から100人の課題を解決するようなものは作れる気がしていなくて、本当に眼の前のその1人のニーズに応えるものをつくった結果、それが発展して10人、100人の人が使ってくれるようになると広がっていったらいいなとは思います。でも、まずは目の前の人と向き合い続けるということを意識しています。
松原:ニーズに適合するように知識や技術の幅も広がってきたのだと理解しました。これから大学に入って専門性を高めていくと思うのですが、ロボットの専門家が多い工学系の大学ではなく、慶應義塾大学環境情報学部(以下、SFC)を選んだ理由はあるのでしょうか。
篠部:当初は工学系の大学に進もうと考えていました。しかし、理工学部系を調べてカリキュラムを見ているうちに、自分が学びたいことがすべて学べないことに気づきました。工学的な観点で技術的に高いプロダクトだけではなく、それを体験した人の心理的・生理的な反応を踏まえて機能へフィードバックをかけるようなアプローチもしたい。人の感情変容を設計するような視点でも学べる大学を探していたら、SFCにたどり着いたのです。
誰かのために科学技術を生み出し、届ける仲間を増やしたい
松原:ここからは大学後の未来についてお聞きできればと思います。大学卒業後の道はどのように考えているのでしょうか。
篠部:今は事業を始めてみたいと思っています。もちろん、大学院に進学してしっかりとしたエビデンスをとって、良い論文を書いて学会で発表するということも一つだと思うのですが、研究開発の先で、やっぱり私は目の前の人に届けるフェーズまでやりきりたいという思いが強いです。実際に自分の作ったものを届けた人の体験を変えることに興味があるので、研究開発でアカデミックにやる考え方・方法も取り入れつつ、だけどメインは社会実装していきたいなと思っています。どちらかというと届ける手段として起業することも視野に入れているという感覚です。
松原:2022年にスタートアップ元年と言われて、今日本中で起業の流れが加速している中、どうしてもいつの間にか目的と手段が入れ変わってしまうことがありますが、「自分が解決したい世界を実現するには起業という手段でサステナブルにやっていきたい」という意思を感じました。
篠部:もしかしたら、一番最初に開発したロボくまが届けたい人に届けられなかったことが大きいのかもしれません。だいたい開発が終わって実証実験のフェーズとして初めてテストしようと友達のお母さんと日程を決めたのですが、ちょうどその届けようとした1日前に亡くなってしまいました。その直後は、届けたい人に届けられなかった悔しさから、何のために私はものづくりをしてたんだろうと悩み問い直す時間がありました。そのときに振り返ってみると、目の前に助けたい人がいて、その人に必要とされて自分がプロダクトをつくることに喜びを感じることに気がつきました。だから、社会実装にこだわりを持っているのだと思います。
松原:すごく納得しました。この4月から次世代による次世代のための研究所、ADvance Lab(以下、アドラボ)の第2期として参画してくれましたね。SFCでもプロダクト開発の仲間がどんどんできると思うのですが、アドラボに入ろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
篠部:アドラボに魅力を感じたのは、頑張っている同世代から刺激を受けられるだろうと思ったからです。昨年、リバネスと太陽誘電株式会社が実施しているリバネス奨学金 太陽誘電ゼミに招待生として参加させてもらいました。そのゼミ活動では、毎月成果報告をみんながして、来月までのゴールを立てて、また活動をしてくるという4ヶ月を過ごしました。いい意味で競い合っているその空気感に乗っかったほうが研究活動が加速することを実感していたので、それが通年でできるアドラボに魅力を感じたのです。

松原:同世代の仲間を集めるためにアドラボで活動することを決めたというわけですね。これまではどのようにプロダクト開発をしてきたのでしょうか。
篠部:これまではほとんど一人でやってきました。様々な大人の方々にアドバイスをもらっていましたが、技術的な部分を一緒にやってくれる仲間がほしいですね。例えば、機械設計や電子工作の知識がまだ浅いので、アドラボや大学で仲間を探していこうと思っています。
松原:アドラボという組織をつくってから次世代研究者との接点がすごく増えたのですが、篠部さんと同じく、これまでとは考え方や行動規範、行動範囲が大きく違っていて今までの当たり前だった価値観が変化していることを実感します。今後、開発を進めていく中で、企業とのコラボレーションの機会も増える可能性があると思いますが、篠部さんからみて、今の企業に求めることはどのようなことなのでしょうか。
篠部:誰の何を解決するか、というところを明確に持って科学技術を使うことが大事だなと思っています。日本の企業の持つ技術は圧倒的に高いのですが、それをつくることが目的になっていて、社会にどう落とし込んでいくか、という視点が少しかけている印象です。なので、その技術をもっと世のため人のためにどう使っていくかという視点で活動する企業が増えたらいいなと思っていますし、そこをデザインできる人に自分がなりたいと思っています。
信念を押し付けるのではなく、対話で共感をつくる
松原:今日話してくれたような篠部さんの価値観がどのように形成されてきたのかにすごく興味があります。
篠部:ずっと信念として持っているのは、「世のため人のために科学技術を使う」ということです。ロボットも、場合によっては、人の仕事を奪う存在にされることもありますし、人らしいロボットを追求すると倫理的観点から指摘を受けることもある。いろんな声がある中で、誰の何を解決するのか、そしてそれが世のため人のためになっているのかということは、常に言い聞かせて考えるようにしています。
松原:「科学技術の発展と地球貢献を実現する」というリバネスのビジョンに共感してくれたからかもしれませんが、この2年間でたくさんのリバネスがやっている取組みに参加してくれましたよね。所属していた高校という枠を越えて、全然知らない人と会うことへのハードルはなかったのでしょうか。
篠部:特にハードルは感じないですね。初めて会う人と、共通点とか重なる部分を探しながら、お互いの活動をシェアし合う時間は結構好きなんです。自分の世界に引きずり込むのではなく、いろんな価値観があって、でもアプローチの方法が違うけど、目指す世界は似ているなとか。そういうのを考える時間は楽しいなって思います。
松原:リバネスが大事にしているブリッジコミュニケーションという考えとまさに同じだなと感じています。相手が今何を考えていて、何がしたくてとか、どういうバックグラウンドがあって、どういうベクトルを持っている人なのかというのを理解した上で、自分のベクトルと重ね合わせていく、というようなコミュニケーションを我々は実践しているのですが、高校生までの間にそのような考え方を身につけていることにびっくりしています。
篠部:きっと母親の影響が大きいと思います。私がいけないことをしたときに、怒るのではなく、ずっと対話を大事にしていました。喧嘩しても、分かりあえるまでは向き合うことから逃げることを許してくれません。長いときは2日間にわたってずっと話し合っていたこともあります。その経験から、どんな相手とでも分かりあえるんだという感覚があるのだと思いました。
松原:とても大切な体験ですね。篠部さんが形成される過程にこそ、世の中の変化に対応するマインドセットのヒントが隠されているように感じました。今日はありがとうございました。これからはアドラボで、楽しく新しいことにチャレンジしていきましょう。(構成・海浦 航平)
