「その人らしさ」は人との関わりから生まれる

「その人らしさ」は人との関わりから生まれる

本記事は、2025年9月発行の人材応援冊子 Vol.29「2025年の分岐点」に掲載されたインタビュー記事をもとに、ウェブ掲載用として再編集したものです。

話し手

竹内 雅樹 氏
株式会社コロキアム 代表取締役

東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 博士課程修了、博士(工 学)。同専攻修士課程在学中に学生プロジェクトとして、ハンズフリー 型の電気式人工喉頭 「Laryphonix(レアリフォニックス)」 開発チーム のリーダーを担う。2025年4月に株式会社コロキアムを創業し、現職。 声を失った方が日常生活で何不自由なく話せる世界を作る。

聞き手

上野 裕子

株式会社リバネス グループ開発事業本部 部長

竹内 雅樹 氏
株式会社コロキアム 代表取締役

博士(理学)。在学中は米国留学経験を通じて生命の起源の探求を行う。 2013年株式会社リバネス入社。人材開発事業部にて、日本の若手研究者 のための米国研修を開発。同事業部の部長を2年経て、冊子『創業応援』 の編集長に就任、多くのベンチャー経営者との対話を行う。その後日本 のディープテックスタートアップの東南アジア進出や、東南アジアのスター トアップの日本進出支援の経験を経て、2021年10月より、グループ開発 事業本部 部長就任。リバネスグループの最大化のため、東南アジアと日 本を融合する知識プラットフォームの確立を目指す。

声を失った方向けのデバイス「レアリフォニックス」 の開発に取り組む竹内 雅樹氏。収入や安定よりも、 好奇心や困っている人の役に立ちたいという気持 ちから起業した。これまでの発声補助器具は、首に 当てて振動させて声を出すのが一般的だが、竹内さ んが開発する電気式人喉頭は首にベルトで装着し て使用する。発話が困難な人々の「声」をどう支え るかという研究は、声を失った人が再び声を取り戻 して自由にコミュニケーションを取ることのでき る世界の実現を目指している、という。竹内氏と株 式会社リバネス上野裕子との対話を通じて、「人が 人らしくあるとは何か」という本質的な問いと、人 と人の関わりの重要性が浮かび上がった。

障がいを持つ人に触れて
気づいた課題感

上野: 竹内さんが開発している電気式人工喉頭「レアリフォニックス」は首に巻いて口パクをするだけで会話ができるようになるそうですね。

竹内:はい、事前に録音したその人の声のデータから、振動音を生成して、首元の振動子から振動を喉に伝えます。あとは口と舌の形を変えることで振動音を生成して発声をするものです。

上野:見た目もスタイリッシュです。開発の経緯を教えて下さい?

竹内:最初のきっかけは、高校生の時にバスケ部に所属していて、知的障がいを持っている人向けにバスケットボールを教えている施設を見学した時にあります。そこで初めて障がいを持った人と触れ合い、彼らがダンスをしていたのが印象的でした。

上野:なにがそんなに印象的だったのでしょうか?

竹内:耳の聞こえない人は、見た目ではわかりません。でも、音楽が聞こえないので、うまくダンスできなかったんです。自分は音楽が好きだったので、音が聞こえるのが当たり前になっていたのですが、そうじゃなかった。自分ができる普段の生活ができない人がいる、というのが衝撃的でした。そこで、耳が聞こえなくなった人が音楽を聞いて楽しめると良いな、と思うようになりました。大学進学後に、セミナー形式で音について学ぶ授業があり、ここでも障がいを持つ人と音との関係について考えました。

上野:どのような授業だったのですか?

竹内:文学部で言語の研究をしている教授がスピーカーでした。ALS(筋萎縮性側索硬化症)という体が動かない難病があるのですが、その症状が悪化し、声が出なくなる前に、作業療法士が録音したそのひとの声を PC で再現するというワークショップでした。ワークショップに参加しながら、ALS の方にとって、人とコミュニケーションが取れないことが大変つらいことなのだと初めて知りました。音を聞くだけではなく、音を発することも大事なんだ、とそこで気がつきました。

上野:確かにコミュニケーションを取るには、聞こえることだけではなく、伝えるための声も重要ですね。

竹内:その通りです。その後、その文学部の教授の紹介で、理研の言語発達チームの研究に1年間参加させてもらいました。赤ちゃんがどう言葉を学んでいくのか、母親が話しかける言葉を解析するものでした。ここでも音声の研究に関わることになりました。

上野:そこから、なぜこの装置を作ろうと考えるようになったのですか?

竹内:学部ではコンピューターサイエンスの研究をしていたのですが、もっと音声の研究がしたいと考えるようになりました。そこで、大学院では大学を変え、音声ではなく、福祉に近しいラボに入りました。

上野:大学も専門領域も変えるのは、挑戦的です。発声への興味が高まってたんですね。

竹内: 研究を進めている中で、ある時 Youtube で喉頭を摘出された方が外部式人工喉頭の練習をしている動画を見ました。手に持つ小型装置を喉や顎下に当て、振動を口内に伝えることで発声する、というものです。しかし、この発声方法だと、ロボットみたいな声に聞こえるんです。初音ミクのように自然な音声をつくる技術がある時代に、ロボットみたいな声になる、ということに違和感を感じました。そこで、自分が解決策を提示して、その人らしい声で話せるようにできないか、と考えたんです。

上野: 開発の方向性はどのように考えたのですか。

竹内:まずは、咽頭を摘出し、声を失った当事者の方たちに向き合いたいと思い、いくつか社会福祉法人に連絡をしました。すると、東京都障害者福祉会館にお越しくださいと誘ってくださいました。現地に行ってみると、「その人らしい声」をどう再現するかに取り組まれていました。

上野:まさに「その人らしい声」が求められていたんですね。

竹内: はい、その人たちとと話してみると、親身になって接してくれる優しさに触れました。試作をしたら前向きに試してもらえる。日常で何に困っているかも教えてくれました。そのひとつに話すたびに人工喉頭を首に当てることが悪目立ちしていると感じ、人と話すことが億劫になってしまう、という人がいることを知りました。優しく接してくれるこうして出会った人たちが、日常生活で何不自由なく話せる、過ごせるようになることが開発に取り組む意義だと考えるようになりました。

上野: 声を発する、会話することをためらってしまう要因が音声の質以外にもあったんですね。

取り戻した声が人との関わりを生む

上野: 当事者の方々に出会ったとはいえ、なぜそこまでして開発しようと思えるのですか。

竹内: 人の役に立ちたい気持ちもありますが、自分らしいことにチャレンジしたい、自分しかやっていないことをしたい。自分の欲に従って取り組み、後世に名を残したい、と考えています。

上野: 私も生命の起源を知りたいと研究をしているので、自分の欲や好奇心のため、というのは理解します。

竹内: 正直に話せば、自分のために、というのを考えることから逃げてきました。運動神経も良くないですし、自分には自信がない。自分の将来を考えるのが得意じゃないんです。将来のスケジュールを立てるのが苦手ですし、いま目の前に向き合っていることをやっていきたい、という気持ちが強いです。

上野: 将来を考えることが苦手なのに起業したんですね。自分で問いを考え、答えのない取り組みをするという、茨の道を選択しているように見えます。その大変なことになぜ取り組むのでしょうか?

竹内: 大学生の頃、みんなが就職活動をするタイミングで、大企業に新卒入社した人が自殺をした、とニュースを見て衝撃的を受けました。大企業に入社してやりたいことができないかもしれないし、そういう人生を送るのが必ずし良いわけではない。ずっとその会社が安泰かどうかもわからない、ということに気づきました。それならば、自分がやりたいことをできる方がずっと良い。10-20年と歳を重ねるうちに、振り返るとその方が良かったと思えるんじゃないか、と考えました。

上野: 大企業であれば給与も入ってきますが、安定やお金に価値を感じるよりも、自分がやりたいことができる、誰かや社会の役に立つものを開発したい、と考えたからなんですね。

竹内: はい、自分がお金持ちになりたい、というよりも人助けをしたいんです。お金持ちはたくさんいますが、例えば、スティーブ・ジョブスは他の人がしていないことをするからこそ名前が残っている。もちろん、稼げたら嬉しいです。ただ、誰もしていないことをすることが、個人としての名を残せると思ったんです。

「人らしさ」の追求が、
周りからも求められている

上野:これまでの技術では、喉の振動で声にすることはできてもロボットのようだし、首にデバイスを当てるのが悪目立ちするという話でした。竹内さんは「その人らしさ」を声以外にどう加えていますか?

竹内:実は、その人の声の再現でなくても、たとえば高倉健の声が良い、という人もいます。

上野: 本来の声をそのまま再現するだけではないんですね。

竹内: 相手が不自然だと感じないように話せるか、が大事です。本人自身の声でなくても、聞こえてくる声が相手に「その人らしさ」を100%伝えられていることが大事だ考えています。また、利用者からは、「会話が噛み合わないときに、相手が自分に気を使ってわかっている振りをすることに傷つくことがある」というフィードバックも受けました。

上野: 確かに、気を使われすぎて自然なコミュニケーションが取れないと悲しくなりますね。

竹内: はい。コミュニケーションでは話者の個性ある表現や、人前で普段どのように振る舞っているか、なども大切な要素です。聞く、話すが会話に必要な最小要素だとすると、より綺麗な声で歌いたいといったその人の「欲」を積み重ねられるようにしたい。その人の欲に従って表現される、それが「人らしさ」にもつながっています。

上野: 考えていることを、わざわざ言葉にしない、という表現もありますね。

竹内: 余計なことを言わない、というのも個性です。

上野: 言葉選びも、どう見られたいかも、その人らしさ。レアリフォニックスには、その人の生き方の意味や価値がのっているんですね。

竹内:どう話すかによって、話者と周りの距離感が変わるんです。利用者の方ご本人だけでなく、ご家族からも「その人らしく」話してほしい、という想いを聞きます。だから、実証にもご家族が一緒に同伴してくれています。開発も進み、今では「孫に喜んでもらいたいので使いたい」と思ってもらえるようになりました。

上野: 言葉を発する本人だけでなく、周りにいる人も積極的にコミュニケーションを取れるようになるんですね。

人との関わり合いが
さらに価値になる時代へ

上野: 声は人との関わりを促すもの。レアリフォニックスは、声を再現するためだけの装置ではなく、人との関わりを生み出すものですね。

竹内: はい、相手がいないと、コミュニケーションは生まれません。たとえ裕福でも介護を受けながら、孤独死する人もいます。高齢の人も障がいがある人もコミュニティに入って活動している人は元気です。毎日何かを一生懸命やっている。それが生きている意味を感じさせてくれる。家ではほとんど話さない人も、例えば週2日のコミュニティー活動ではいろんな人と会話をする。そうすればその人らしさはでます。

上野: その通りですね。資本主義で重視されてきたお金の価値よりも、これからは人と人の関わり自体がもっと価値になります。

竹内: 人はいずれ高齢となり、退職していきます。スマホやタブレットができて、一人で調べて生きられる時代にはなっているし、誰とも話さない、一人で生きていく、という方向に向かう人もいます。もちろん、一人で楽しく過ごしているかもしれませんが、誰かと関わって自由に生きる方が楽しいと思います。昔を振り返り、人と話せていた時期が良かったと懐古している人もいると思います。そうなると、もったいない。

上野: 人は一人では生きていけない、共感します。

竹内:コミュニティがあり、誰かとコミュニケーションし、助け合いながら生きる、というところに価値があります。誰もがそういうコミュニティで活動したり、常に何かやることがある状態にするために、人の役に立つものを作りたいと考えています。

上野: 生物学でも、生き物には内側と外側があって境界線がうまれ、その両方の認識がないと、その個が存在しないと考えられています。人の関わりも同じで、自分だけでなく、相手がいないと、自らの存在意義や「その人らしさ」が生まれない。人と関わることで、違いが生まれるという点を考えさせられました。そう捉えるといろんな未来が広がります。

竹内: レアリフォニックスが目指すのは、メガネのような存在感です。メガネはすでに日常に溶け込んでいます。目が悪い人は、道端のお店で手に入れたメガネをかける。声を失った人は、レアリフォニックスをつける。そうすると声を失っても目立ちません。もっというと、メガネをかけて、おしゃれを楽しむ人もいます。このデバイスもそんな未来を目指したいです。

上野: 技術によって、声だけでなく、人と人の関係性を取り戻す――。自分らしさは一人では成り立たず、「その人らしさ」は人との関わりで生まれる。。竹内さんの挑戦は、2025年という分岐点に立つ私たち一人ひとりに、「自分らしくあるとは何か」を問いかけるものだと感じました。ありがとうございました。

(編集・大坂 吉伸)

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