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ウキクサがつなぐ環境と食―自分とみんなの幸せを作る産業創出

話し手
北村 もあな 氏
Floatmeal株式会社 代表取締役 CEO
日本人の両親のもとニュージーランドで生まれ、オーストラリアで育つ。北海道大学大学院水産科学院で、北極海における環境変化が海洋生態系に与える影響を研究した。気候変動に関する研究を進める中で、「将来の食料を持続可能に確保することが、地球環境の保全につながる」と考えるようになる。大学でウキクサの研究に取り組むカマル・サジャッドと出会い、次世代の食資源として注目されるウキクサの量産技術と事業化の可能性に魅力を感じ、2023年5月、修士課程在学中にFloatmeal株式会社を設立した。
聞き手
川名 祥史
株式会社リバネス 人材開発事業部 部長
横浜国立大学大学院環境情報学府修了、博士(環境学)。2008年より横浜国立大学VBL講師、株式会社リバネスの子会社である株式会社LDファクトリーを立ち上げ、2014年よりリバネスに入社。現在までに株式会社アグリノーム研究所や株式会社KAKAXI等、グループ子会社4社に取締役として経営に参画。植物工場事業や飲食事業、アグリテックベンチャー支援など、農林水産業に関わる新規事業の立ち上げに関わる。

社会や環境を変える挑戦は、最初に飛び出した誰かだけが担うものではない。ファーストペンギンとも言われるアントレプレナーに追随し、周囲を巻き込みながら前進する「セカンドペンギン」の存在が、次の時代を動かすこともある。Floatmeal代表の北村もあな氏は、大学時代に出会った仲間たちとともに、栄養豊富なウキクサを活用したタンパク源として産業レベルで活用できる栽培技術の普及を行い、環境にも人にも優しい新しい食の供給モデルをつくることを目指している。パワフルに活動を続ける彼女のエネルギーの源泉は、実は「幸せでいたい」という素直な想いだった。
環境問題に食から挑む
川名:初めて会ったのは2022年の秋、アグリテックグランプリでしたね。試作品のウキクサ粉末を手にしていたのが印象的でした。
北村:はい、あのときは大学3年生でした。まだ会社になる前で、今のCTOサジャッドが代表として発表をしていました。私は裏で慣れないスライドを必死に作っていて、今思うとすごく初々しかったですね。
川名:まだあの時は、食べられるほどの量もなかったウキクサ粉末が、今では食品として展開されていて、この3年で大きく成長してきましたね。当時の所属は北海道大学の水産学部だったと思いますが、どういう経緯でFloatmealに加わることになったんですか?
北村:大学2年生の頃、学生起業プログラム「Hult Prize」にスタッフとして関わらせてもらったことがきっかけです。そこで、留学生チームとして活躍していたFloatmealのメンバーに、声をかけたところ仲良くなり、メンバーに誘われました。このチームにジョインしたら「環境のことに関われる」と思い、当初は春休みの2ヶ月だけ全力で関わろうと考えていました。気づいたら夢中になっていて、そのまま今に至ります。
川名:最初のきっかけは直感から始まる部分って、ありますよね。ただ、修士課程の時に、北極に行って研究していた姿を見ていましたが、今ではウキクサのベンチャーのCEOとして活動をしていますね。海洋や環境に関心を持ったきっかけも聞かせてください。
北村:幼少期にオーストラリアの研究センターで出会った海洋学者に憧れたことがきっかけで、海について学べる北海道大学の水産学部に進学しました。大学に入ってから、海洋学と出会い、海を通して、地球全体をひとつのシステムとして捉える視点に強く惹かれ、研究を始めました。海洋学に加えて、いろいろな先生方の教えに触れる中で、自分自身も環境問題に取り組まなければという意識が芽生えていきました。なので、Floatmealに出会ったときに「私が取り組むべきプロジェクトはこれだ!」と感じたのです。
川名:海洋から環境全体に関心が広がっていたんですね。実は、私も学生時代、マングローブの研究を通して、食と環境に関わる研究とビジネスが展開できればと思い、活動をしていました。ウキクサは次世代のタンパク源としてのイメージが強いですが、環境にはどのように挑戦していく計画でしょうか。
北村:ウキクサは環境負荷が低く、タンパク質などの栄養価も高い植物です。私たちはそれを新しいタンパク源として活用し、環境と食の両面から社会を変えていきたいと考えています。Floatmealとして参加するスタートアップのイベントでは、ウキクサを用いたドリンクも提供予定です。最終的には地球温暖化の解決に貢献できる事業に発展させて行きたく、温室効果ガスの排出を1%でも減らしたと言えるような成果を出すことが目標です。
川名:特に今年の夏は高温で、天候不順もあったことで、北海道でも玉ねぎが不作だったと聞きました。年々価格も上がってきており、数年間で倍以上に上がっているという話を聞いています。目に見える形で、温暖化の影響を受けるようになった今、食糧生産と環境負荷低減は両輪で実現していかないといけない課題ですね。
北村:食システムは世界の温室効果ガス排出の約3分の1を占めます。だからこそ、誰もが関わる“食”からアプローチするのが最も現実的で、社会全体の意識も変えられると考えています。ウキクサを通じて、持続可能な食の仕組みを広げたいですね。
自分とみんなの幸せのための船をつくる
川名:Floatmealを立ち上げた頃、学生発ベンチャーが周りにたくさんいたわけではないと思いますが、起業への抵抗はありませんでしたか?
北村:全くなかったです。昔から自由に生きてきたので、周囲の反対も自分の迷いもありませんでした。そもそも自分の地元の東京を離れ北海道の大学に進んだ時点で少数派でしたので特に抵抗は感じませんでした。それよりも、地球規模で環境問題に挑むFloatmealの構想に強く惹かれました。私は「得体の知れない大きなもの」に惹かれるんです。海とか地球とか、そういうスケールの大きい話が好きなんです。
川名:壮大なテーマを掲げることが原動力につながっているんですね。世界初の現象から、地球規模で課題解決を目指していくことに取り組めるのはディープテックベンチャーの魅力です。規模の大きなビジョンに惹かれるきっかけはあったのでしょうか。
北村:少し恥ずかしいのですが、「社会に認められたい」という気持ちがあります。以前は自分自身が誰かに認められたいという考えがあったのですが、それでは何かが足りなかった。最終的に行き着いたのは、自分の活動で、社会に貢献することができ、人々に幸せをもたらすことへとつながれば自分自身も幸せを得られるのではないかと考えています。言語化できたのは最近なのですが。そうであれば、社会のためになる事業を大きくすればするほど、自分も幸せになるし。他の人たちも「いいね」って思ってもらえるようなものが作れるのではと考えています。

抹茶のような風味がする粉末状のウキクサ「Powdered Wolffia」
川名:昔は、承認欲求を満たすために、車を買ったり、いい服を着たりすることに価値が置かれていたころもありました。今は、社会に貢献していることに価値を感じるような考えを持つ人が増えてきたかもしれないですね。
北村:私の行動の軸は全部幸せに感じるかどうかですね。友人と笑い合う時間も、将来のために夜遅くまで勉強する時間も、どちらも幸せなんです。ただ今のことばかり追うと偏るので、未来のために頑張る時間も大事にしています。Floatmealを支えてくださる方々は、人の幸せを願う人ばかり。私はまだ自分の幸せが中心ですが、近い将来人の幸せのために動けることを目指しています。
川名:Floatmealは「すべての人に持続可能な栄養を」というビジョンを掲げていますが、会社がここに向かって進んでいくことで、幸せな人が増えていくのはいいですね。
北村:今、関わってくれている人たちには、Floatmealという船を使って、自分の人生の自己実現のために利用してほしいと思っています。Floatmealは誰かの自己実現の通過点であっていいんです。私もFloatmealそのものではなく、それを通じて幸せをつくる一人の人間です。会社は私の成長と共に進化しますが、完全に同一ではない。別々の存在として、一緒に成長していくのが理想なんです。
川名:リバネスも、Leave a Nest、巣立つという意味を社名に込めているので、とても共感できます。北村さんがこういう考え方だからこそ、Floatmealにはたくさんの人が集まってきて、共に活動できるのかもしれませんね。
失敗したくないセカンドペンギンの強さ
川名:北村さんは、やると決めたら集中して行動しますよね。Floatmealに参加したときも「春休みの2ヶ月はフルコミット」と区切っていました。

北村:それは、実は私がビビリだからなんです。
川名:慎重、臆病というイメージより、超異分野学会の北海道フォーラムでは、セッションに登壇してもらった機会もありましたし、紹介したプロジェクトにすぐに参加してくれたり、行動力があって、フットワークが軽いイメージがありました。
北村:勢いはありますけど、怖がりだからこそ、次の行動を決めてから「よし、行こう」と踏み出すタイプです。私は成功を目指すというより、「失敗したくない」から努力するんです。失敗が怖いから、人の意見を聞き、うまくいっている人のやり方を真似して実行する。新しいことを生み出すより、良いと思ったことを素直に取り入れるスタイルですね。
川名:北村さんの周りには、応援してくれる社会人もたくさんいる印象がありますが、話を聞いて取り入れる、これが巻き込むポイントの一つになっているのかもしれませんね。
北村:人に「いいね」と言ってもらえることを集めてきた結果、今の形になったのかもしれません。自分で考えるより、人から学んで動く方が早いです。でも後悔はしないと決めています。どんな結果でも、自分が選んだ道を否定したくない。過去の私を信じて生きていたいんです。
川名:人の考えを取り入れることで、マイナスのことがあった時に、人のせいにせずに、自分が決めたことだと、自己責任で考えることは大事ですよね。共同創業者のサジャッドさんも、考え方は近いんですか?
北村:彼はとてもビジョナリーで、自分がやりたいことを明確に言語化できる人。私は後から入ったので、どちらかといえば「セカンドペンギン」です。最初に飛び込むタイプではなく、冷静に状況を見てから飛び込む。サジャッドは常にアイデアに溢れている人です。私は周囲からの多数のアドバイスを元に意思決定へと繋げ、チームを外部の方達を巻き込みながら実行していきます。Floatmealの方針はいつもサジャッドと話し合って決めています。
川名:CEOとCTOのバランスがいいんですね。
北村:そう思います。例えば採用の際には、私は人が好きで、感情で動くタイプ。いい人だなと思ったらすぐ声をかけてしまうんですが、サジャッドは論理派だからこそ、冷静にその方のスキルを見極めてくれます。彼が方向性を示してくれて、私はその中で「この方にぜひお願いしよう」と判断する。だから彼のことを頼りにしています。私は全員の意見を聞きながら、最善の策を選び取れる「セカンドペンギン」。周囲の方たちも巻き込みながら、Floatmealというチームを前に進めるのが私の役割です。

川名:まさに、みんなの幸せを形にするためのリーダーですね。
ウキクサと微生物の力で新たな産業を作る
川名:北海道以外にも、活動拠点を広げているという話を聞きました。今後は事業をどのように発展させていく予定ですか?
北村:来月からは、豊橋に新しい研究開発拠点を設け、サジャッドが中心となって体制を整えます。私は北海道と東京とタイを行き来しながら、タイでの産業化を本格的に進めます。タイには古くからウキクサを食べる文化があり、現地の人たちもその伝統を守りたいと願っています。彼らと共に、文化と経済の両立を目指す産業をつくっていきたいです。
川名:次のステージに向けて動き出すんですね。
北村:はい、実は会社のミッションを「『自然の力』を生かし、『新しい産業』を築く」にちょうど変えたところなんです。
川名:現在の事業の話を聞くかぎりは、前のものでも違和感はなかったですが、なぜ今変更したんですか。
北村:私たちのコア技術は、サジャッドの出身研究室である北海道大学大学院環境科学院・森川研究室が世界で初めて発見した、ウキクサの成長を促進する微生物を活用した栽培技術です。この技術はウキクサ以外にも応用できます。イチゴやトマトなど、植物の成長や栄養価向上にも活かせる。環境問題の解決に繋がるものであれば、どんな分野にも挑戦したいと考えています。
川名:都市緑化や土地の再生などにも使えそうですね。食品業界との連携や海外進出なども含め、私も一緒に動きたいことがたくさん浮かんできました。
北村:そうですね。サーキュラーエコノミーというキーワードについても、よくサジャッドと話しています。将来的には、廃水処理なども組み合わせ、循環型社会をウキクサと微生物を使って作っていけるのではないかと。最終目的は、一番大きい影響力を持って温室効果ガスの削減に繋げることです。そのためにも、これからも挑戦を続けていきます。
(構成・重永美由希)
