研究も経営も全部やる!研究も経営も全部やる!優等生の殻を破り、師と共に挑む本気の課題解決

研究も経営も全部やる!研究も経営も全部やる!優等生の殻を破り、師と共に挑む本気の課題解決

本記事は、2024年12月発行の人材応援冊子 Vol.26「本気のやり取りを通じて、世界を変える仲間になる」に掲載されたインタビュー記事をもとに、ウェブ掲載用として再編集したものです。

話し手

佐々木 信 氏
SPHinX株式会社 COO
筑波大学大学院

1997年福島県生まれ。現在27歳。2022年より現在まで、筑波大学大学院博士後期課程に在学中。中学生の時に東日本大震災を経験したことがきっかけとなり、大学院では、被災地や途上国など、インフラが整備されていない環境でも使用できる医療機器や医療技術の開発を行ってきた。2024年8月に、指導教員らと共にSPHinX株式会社を設立し、代表取締役COOに就任。専門は高分子材料および生体材料学。趣味はサウナとテニス。


聞き手

髙橋 修一郎
株式会社リバネス 代表取締役社長 COO

東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(生命科学)。リバネスの設立メンバー。リバネスの研究所を立ち上げ、研究支援・研究開発事業の基盤を構築した。これまでに「リバネス研究費」や未活用研究アイデアのプラットフォーム「L-RAD」など、独自のビジネスモデルを考案し、産業界・アカデミア・教育界を巻き込んだ事業を数多く主導している。2010年より代表取締役社長COO。2022年より株式会社リバネスキャピタル代表取締役を兼務。

感染症の簡易診断キットを開発し、博士後期課程在学中に起業した佐々木 信さん。彼を突き動かしたのは、指導教官の先生の熱意と、技術で医療の課題の解決に貢献したいという想いだった。研究者3人でスタートした佐々木さんの会社は、アフリカでの実証実験を開始するなど、すでに大きな一歩を踏み出している。佐々木さんはこれまでどんな道を歩み、どんな未来を目指しているのだろうか。

世界の感染症問題に挑む
博士学生

髙橋:佐々木さんは、SPHinX株式会社(読み:スフィンクス)を今年の8月に起業されたんですよね。ぜひ事業について聞かせてください。

佐々木:温度応答性のスマートポリマーを用いた感染症の簡易診断キットを開発し、途上国で販売、広めることを目指しています。途上国では、現在も大きな問題となっている感染症がたくさんありますが、まず最初にターゲットにしたのはC型肝炎ウイルス(HCV)が引き起こす肝炎感染症です。これは肝臓がどんどん悪くなっていき、最終的には肝抗併や肝癌を発症してしまうような病気です。全世界に約7000万人もの患者さんがいると言われています。WHOも、新規感染者数と死亡者数を2030年前に減少させるという目標を立てているんですが、今のままですと、この目標の達成は難しいというふうに言われているんです。

髙橋:日本でも20年くらい前に、非加熱の血液製剤によって引き起こされるC型肝炎が問題になっていたこともありましたが、今は、治療薬やウイルス検査が普及して、状況は改善していますよね。けれども途上国ではまだ難しいんですね。

佐々木:はい。実は治療薬はすでにあるんですが、有効な検査方法が普及していないからなんです。今、PCR検査が一般的ではあるのですが、とても高価なのと専門のスタッフが必要という理由でなかなか途上国では普及しません。そのため安価で簡便な検査キットさえ開発できれば、すばやく治療薬を渡すことができ、多くのHCV患者を救うことができます。

髙橋:その新たな検査キットに用いられているのが、佐々木さんの研究室の技術なんですね。

佐々木:そうです。ここにコア技術のスマートポリマーの設計技術が活かせるのです。スマートポリマーは様々な外部刺激に応答して、その性質を変化させるような高分子材料のことを言います。その外部刺激の種類やポリマーの反応の仕方を、様々な設計をすることができるんです。このポリマーを使うことで、HCVに感染しているかどうかを目視で判断できる検査キットの開発が可能になります。すでに実際にアフリカで取り組みを行っていて、エジプトやナイジェリアの貧困地域に我々の開発したスマートポリマーを持っていき、現地のHCVスクリーニング検査を行っています。

髙橋:いち早くアフリカまで持っていっているというのは本当にすごいことですよね。起業に踏み切ったきっかけはあるのですか?

佐々木:もともと新しいことにチャレンジしてみたいという好奇心がありました。その中で進路を考えたとき、起業というのが一番魅力的でした。

髙橋:でも新しいことへのチャレンジは、起業をせずとも大学での研究や企業勤めの中でもできますよね。なぜ起業だったのでしょうか。抵抗感はありませんでしたか?

佐々木:抵抗感はあまりなかったですね。たとえ失敗してもまた次がありますし、その経験が今後の人生に活かせるだろうと思っています。世の中的にもスタートアップの追い風が吹いていますので。また指導教官の荏原先生が、起業についても積極的に考えていた、というのも大きかったです。自分は博士学生として技術を深く理解できつつビジネスのことも知っている、両方できる人間になりたいと思っています。

髙橋:荏原先生に会う前は起業については考えていなかったんですか?

佐々木:ほとんど考えていなかったですね。ベンチャーと言うとIT系のイメージが強くて自分とは関係ない別世界の話だと思ってました。でも荏原先生に出会ったり、リバネスを通して、研究開発型ベンチャーの存在を知りました。そこで自分も研究成果を使ってベンチャーを立ち上げることができるんだと気がつきました。

外界を知れる環境が、
将来の選択肢を増やす

髙橋:まわりの学生や友達などの中に起業仲間はいますか?

佐々木:いないですね。正直大学生や大学院生の多くは、まだ起業のことをよく知らないと思います。みんな知らないから選択肢の一つとしても考えない。また知ってるつもりでもリスクばかりが目につくのかもしれません。

髙橋:たしかにそうですよね。大学生の環境はまだ閉鎖的で、同じ学部、同じ研究室の仲間としかあまり接点がない。でも本当はもっといろんなバックグラウンドの人とつながることが大事なんだと思います。理想を言えば大学生のうちから社会人とか他分野の研究者とか、いろんな人と出会って刺激を受けられる場があるといいですよね。だけど今はなかなか難しいのが現状じゃないですか?

佐々木:おっしゃるとおりです。僕自身も普段生活しているのがラボの中なので、同じ世代の人としか話さないですね。もっと広い世界を知りたいです。

髙橋:日本の若者は、社会に出るまでに事業をやっている人と出会う機会が圧倒的に少ないですよね。そういう人たちが学校に教えに来たりする機会がほとんどないから、若い子たちは「事業を自分でやる」というイメージを持てないのではないかな。日本には会社の数で言ったら350万社くらいある。つまり30人に1人が社長。赤子からお年寄りまで含めてね。だから実は事業をやっている人は、すごくたくさんいるんです。でもその人たちが何をどんな思いでやっているのかっていうのが、若い世代に伝わってないんだよね。僕は昔から事業をやっている大人たちがもっと学生や若者の前に出ていって、体を張って何かをリアルに訴えていく必要があると思っています。別に起業しろと言うつもりはないのだけれど、「世の中にはこういう働き方や生き方もあるんだ」ということを知るだけでも、選択肢の幅を広げることができると思うんです。

佐々木:僕自身もそういった人と知り合う機会は少なかったですね。

髙橋:例えばリバネスと佐々木さんのSPHinXがタッグを組むことも、ボーダーを超えた面白い取り組みの一つですよね。お互いに持っているリソースも違うし、得意分野も違う。だからこそ面白い。そういう風に普段は交わることのない人たち同士が出会って、何か新しいものを生み出していく。僕はそういう「場」をたくさん作っていきたいと考えています。

先生の本気が、人生を変えた

髙橋:ちなみにどんな子ども時代だったのですか?

佐々木:優秀、ではあったと思いますね。

髙橋:いいですね笑。

佐々木:中学生までは、ですね。福島県の田舎町で育ちました。勉強もそれほどせずに学校でも1番か2番の成績だったので、自分は天才だと思い込んでいました。対外的には謙虚な態度でいたので、そういうところも含めて優秀に見える子どもだったのかなと思います。

髙橋:佐々木さんのように学校の成績も良くて大人が何を期待しているかも分かって先回りできる学生って、その先の期待されるルートも見えていることが多いように思います。そこから外れることに恐怖をおぼえたり、それ以外のルートの存在すら知らずに進んでいく。親や先生や“想像上の”社会の期待に沿って自分の人生を選択していく。そういう学生は、結果として10年後に社会に出た後に、「良いやつだし優秀なんだけど、何をやりたい人なのかわからないな…」と思われてしまう。自分の能力を発揮して、社会を前に進める先頭に立てているかというと、それは違うなと。これは能力というよりむしろマインドセットの話で、そういう事例を本当に多く見てきました。でも、佐々木さんは今、いわゆる一般的に理想とされるルートを外れてベンチャーの経営をやっていますよね。

佐々木:そうですね。大学の学部時代はベンチャーとか全く考えていなかったです。博士課程に進むことも考えていませんでした。仮に大学院に進学しても修士まで、その後はそれなりに良い会社に入って、それなりのお金を稼いでという生活をするのだろうなぁと、漠然と考えていました。

髙橋:なぜそれを辞めようと思ったのですか?

佐々木:それはやっぱり荏原先生ですね。荏原先生はとにかく本気で技術の実用化をやろうとしていて、その熱量にひかれました。大学の学部の授業で初めて会った時から、他の先生とは何かが違うと感じました。それは口だけじゃなくて、実際に現地に足を運んで自ら活動する姿勢なんだと思います。学会発表などで実用化のお話をされる先生はたくさんおられますが、実際にお話しすると、「実用化はまぁ無理だよね」と諦めている先生が多かったです。もちろん大学は基礎研究が主体の場所ですので、それを非難するわけでは全くないのですが、荏原先生は本気で実用化を目指しているところが他の先生とは違うなと感じました。

髙橋:教授の本気が、佐々木さんを変えたんですね。

佐々木:そうですね。自分も荏原先生に会うまでは、ある程度自分ができる範囲のことできる範囲でやってれば良いかなって思ってたんですけど、先生に出会ってから、自分の殻を破って一歩外に踏み出してみようと思いました。それまでは現状に満足してたけど、もっと上を目指したいという気持ちが芽生えてきたんです。「ああ、こういう世界もあるんだな」と、新しい世界を見せてもらいました。それが修士課程の頃で、その2年間で結構自分は変わったなと思います。自分が変わっていくことが気持ちよかったというのもありますね。

髙橋:荏原先生はすばらしい方ですね。でも人は他人から変われと言われても、変われないじゃないですか。荏原先生はどのようにして佐々木さんを変えたんでしょう。

佐々木:自分としてはいつの間にか変わっていた、という感覚ですが…先生は結構ダイレクトに「今できないことをやれ」と学生に言い続けてますね。自分はそれをやり続けた結果かなと思います。自分にたまたまその言葉が響いただけかもしれません。また心のどこかではずっと、成長したいという気持ちもあったのかもしれないです。

優先順位はつけない、
全部やる

髙橋:いまSPHinXはどんな体制でやっているのですか?

佐々木:現在、経営陣は3人体制で全員研究者なんです。自分と荏原先生、あとはラボのポスドクの先輩でエジプトからきたナビルさんという方です。彼は、検査キットに使われている温度応答性ポリマーの技術に関しては誰よりも詳しく現地のネットワークもあるので、技術の普及という点でもとても頼れる存在です。その中での自分の役割はビジネスを生み出すこと、対外的に矢面に立つことで、結構いい組み合わせだと思っています。ただビジネスに関しては正直まだ全然分からないことだらけです。

髙橋:良い仲間があつまっていますよね。10年後はどんな状態になっているでしょうね。

佐々木:10年後はさすがに、3人よりは増えていると思いますが…想像がつかないですね。

髙橋:リバネスは創業してから22年が経って社員も増えましたが、その原動力が何かというと、創業時から変わらぬビジョンです。「科学技術の発展と地球貢献を実現する」というビジョンに毎年人が共感して集まってきてくれてるんです。SPHinXはどうでしょう?

佐々木:自分もビジョンかなって思います。何で3人でベンチャーをやっているのかというと、やはり3人ともビジョンに共感し「まずはこの技術を絶対アフリカの人のために使うんだ」という信念があって、同じ方向を向いているからだと思います。でも今後、SPHinXに入ってくれる人が、お金儲けに根性出せる人でもいいかなと思っています。お金儲けができるということは、それだけそこにニーズがあって自分たちの技術が届くということなので。

佐々木:自分は結構優先順位をつけるのが苦手かもしれない。全てをやりたい、全部を経験したいと思ってしまうんです。もちろんビジョンをもってこの事業をやるんだというのもありますし、それを成功させて自分はお金持ちになってやるんだっていう気持ちもあるんです。どちらが大事とかではなくて、全部やりたい。世の中を知らなすぎるからかもしれないですが、今はそう思っています。

髙橋:結局、何をもって全部というのかは誰にもわからないわけで、「全部」というしかないんですよね。やればやるほど、知らないことが増えていく。ある程度できたなと思っていたけど、たいていは実はほんの一部。研究と一緒ですね。終わりがない探求なんじゃないかな。どんどん欲張っていこう!

佐々木:確かに!やればやるほど次にやることが出てきて「沼」のようにハマってしまう、研究に似ているなと感じています。まだまだ起業したてですので、多様な人に会って刺激をもらいながら何事もチャレンジしていきたいと思います。

(文・構成:立花 智子)

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